本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ



過去の教員広場

ホーム  > 過去の教員広場  > 事業継続計画(BCP)を考える/武田甲子郎先生

事業継続計画(BCP)を考える/武田甲子郎先生

9月5日(木曜日)、6日(金曜日)掲載の静岡県富士地域の地方新聞「富士ニュース」に、富士常葉大学社会災害研究センター非常勤研究員武田甲子郎先生の記事が掲載されました。
以下、富士ニュース新聞掲載記事です。

事業継続計画(BCP)を考える 3

BCPの復旧シナリオの作成に当たり、検討段階で対応可能と思われる復旧時間を前提にして、「得意先や社会から求められる許容限度の時期までに、目標レベルの復旧を図る」ため、RTOとRLOを検討します。
「目標復旧時間(RTO)」とは、事業が中断した際に、「いつ(何時間・何日・何週間)までなら、その業務の中断を許容できるか、いつまでに復旧する必要があるか」という目標時間を表す指標です。
復旧目標をいつに設定するのかは、提供する製品やサービスの公共性の高さなどの事業の性質、契約条件などの顧客要件や仕入先との関係により異なります。
この時注意したいのは、過去の回復実績や経験則から復旧できそうな期間をRTOとして設定するのは適切ではありません。復旧目標はあくまでも重要な業務をこれ以上は中断してはならないという期間であり、事業を継続するための「利害関係者(ステークホルダー)」からの要請をきちんと認識し、設定する必要があります。
例えば、顧客への納品が1週間以上遅延すると何らかの罰則が生じる場合には、RTOをその契約条件から1週間以内に設定します。過去の復旧対応例や他者事例を元に復旧可能時間を推定し、その数値をRTOとして設定している企業をよく見ますが、そうした設定方法ではRTOの達成意義が見えなくなります。
そして、設定したRTOの達成可能が難しい場合には、目標の設定変更、目標レベルの変更、または顧客との契約自体の見直しなどを調整すつ必要があります。
「目標復旧レベル(RLO)とは、業務が中断することにより落ち込んでしまった操業水準を、決められた時間内(目標復旧時間:RTO)に、「どの程度(操業水準)まで普及させるか」といったときの「どの程度(操業水準)のことを表します。」
因みに、RTOの単位が「時間(秒・分・時間・週間・ヶ月・年)」であるのに対し、RLOの単位は操業レベルや品質レベル、サービスレベルなど、対象とする事業によって変わってきます。被災時においては、復旧に充てられるリソース(経営資源)が限定され、制約を受けることになると思います。
従って、対象事業のRLOを維持し、限られたリソース(経営資源)を有効に活用するために、中核事業や重要業務以外の被害を受けなかった事業や業務については、縮小や停止を行うことも重要な意思決定になります。
最終的には、RTOとRLOは、密接関係にあるため、両方のバランスを取った復旧の目標の調整が必要となります。
(2013年9月5日 富士ニュース新聞掲載)

事業継続計画(BCP)を考える 4

2004年に発生した新潟県中越地震や2007年に発生した新潟県中越沖地震、2011年の東日本大震災と、昨今の大地震災害に対する企業の対応を考える時に、「サプライチェーン(広義の)へのBCP普及」は、避けて通ることが出来ない大きな課題と成っています。
つまり、サプライチェーンの一部の損傷・破断はサプライチェーン全体の停止ということになり、一企業、一事業所だけが生産復旧できても企業群全体としての事業継続にはなりません。
事業活動を直接、間接的に支援する企業に対するBCPの普及が必要不可欠であり急務であります。
サプライチェーンは「原材料の調達から生産・販売・物流を経て最終需要者に至る製品・サービス提供のために行われるビジネス諸活動の一連の流れのこと」と定義されています。
一般的に、サプライチェーンは自動車業界などに見られるように、中核組立メーカーを中心とし、多種多様の製品や材料、部品を供給する繋がりが複雑に構成されて成立しています。
そのため、中核メーカーはあらためてサプライチェーンBCPの必要性を認識して、供給先への要請を強めています。例えば、「調達先を2社以上に分散する」、「代替となる取引先リストを常備する」、『デボなどの在庫量を従前以上に積み増しする』、「取引先へのBCP作成を要請する」などの具体的な対応が行われるようになりました。
別の観点から見ると、一般的にサプライチェーンの基本機能は、材料や部品の調達~製造(組み立て・加工など)~最終製品の販売であります。中核企業を上位として、その連結した下位の企業群が階層ごとに存在しており、各企業間を物流及び情報で連結することで、チェーン(連鎖)が成り立っています。そして、連鎖の基本構造は、「物理的論理的な二つの要素」で成り立っています。
物理的な要素とは生産計画に基づいて必要な資材を調達し、製品や部品等を製造し、保管し、出荷することであります。つまり、倉庫の立地、運搬手段、物流などの整備が不可欠です。
論理的な要素とは、各企業の生産(受注・発注)管理システムを連動することであります。特に、受注情報に基づいて、生産指示や納入指示(仕様と納期と数量)を精度よく、タイムリーに行うことが重要となります。
つまり、サプライチェーンを運用するためには「物流ネットワークと各企業間のインターフェースである情報ネットワーク」が不可欠であり、どちらの不具合も連鎖の致命傷になります。
そのような環境変化に迅速な対応を求められているのは、直接的に製造活動に関わる企業である「サプライチェーン(狭義)」はもちろんのこと、間接的に製造活動を支援(最終製品を構成する部品、材料等以外の間接資材の供給やサービス)する企業である「サポートチェーン(グループ)」の対応も重要となっています。
サポートチェーン(グループ)の企業は、中堅企業を取り巻く中小地場企業の構成割合が高く、戦力として即応力や実践力、突発対応力が期待され、中核企業の災害時の生産復旧には、欠かせないものとなります。
サポートチェーンは、「製造活動を支援するために必要な製品・サービスの提供を行うビジネス諸活動の一連の流れの中で設備、補修部品、治工具、資器材、油脂類などの供給や建屋、機械、電気工事などを提供する企業群」と定義しています。
(2013年9月6日 富士ニュース新聞掲載)