アフターコロナの地域と観光:静岡の豊かな観光資源を見直そう
蒸発した需要
広い世界を見渡すと観光産業を重要視する国の多いことに気がつきます。例えば、先進国のフランス・スペイン・イタリアをはじめ、大国アメリカ、開発途上国ではタイがそうです。エジプトなどは観光収入が途絶えると、国家の機能が麻痺すると言われています。一方の日本は、第二次世界大戦後の高度経済成長期を経て、ものづくりで世界のトップに昇りつめました。やがてアジア新興諸国の経済発展が、成熟化した日本の経済成長に影響をあたえます。バブル景気の崩壊をきっかけに、日本の経済は「失われた20年」とも揶揄されるほど低成長となりました。こういった背景のなかで、日本政府は2003年に観光立国宣言をします。後進の日本は、21世紀になって「観光」を経済の成長戦略の重要な産業に位置づけました。
しかし、いま人々の往来や交流で成り立つ観光産業は壊滅的な被害を受けています。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、突然、需要が蒸発したのです。観光産業は、これまで経験したことの無い危機的状況に陥っています。
それでは、もう少し詳しく説明を加えようと思います。
なぜ、地域経済の活性化にインバウンドが重要視されるのか
観光の意義は一般的に、①日本経済の成長戦略の柱②地方創生のカギ③自らの文化、地域への誇り④国際社会での地位向上、などが挙げられます。政府が始めた「ビジット・ジャパン・キャンペーン」のインバウンド(訪日外国人)観光客は521万人でした。2019年のインバウンドは3188万人、わずか15年で6倍を超えています。日本の観光産業は、これまで世界に類を見ないスピードで急成長を遂げています。さらに、国内旅行消費額でとらえてみましょう。2019年は総額で27.9兆円です。このうち、インバウンドが4.8兆円(17.2%)を占めるようになりました。今や日本は、観光先進国と言えるほどになっています。他方で、地域経済に目を向けてみます。現在、全国多くの地域は、少子高齢化や人口減少によって需要の先細りが懸念されています。つまり、インバウンドによる新たな需要が観光産業の発展だけではなく、地域経済の活性化に重要なのは言うまでもありません。
地域経済は中小サービス業の従業員が担っている
別の視点から地域経済を見てみましょう。ここでは、2つのポイントで説明します。1つ目は、日本の中小企業(小規模事業者を含む)の数に注目します。現在、約360万社あります。これは、日本の会社の実に99.7%を占めています。また従業員数も、中小企業の従業者が約70%を占めています。大雑把に言うと、地方は中小企業で成り立っており、大都市部に大企業が集まる構図です。2つ目は、産業構造別です。教科書で出てくる第1次・2次・3次産業の典型的な分類でみます。「産業構造の高度化」という経済学で用いる用語があります。産業の比重がその国の経済発展にともなって、第3次産業に重点が移動するというものです。第3次産業とは、非製造業、すなわち「サービス業(広義)」のことを指します。世界で最もサービス先進国はアメリカで、GDP(国内総生産)の80%ちかくを占めるほどです。この傾向に追随する日本の第3次産業は、現在70%を超えるあたりです。これら2つのポイントから何が言えるのか。もうおわかりですね。地域経済は、多くの中小サービス企業の経営如何によって強く影響を受けるのです。その中心的な推進者は、中小サービス業の従業員が担っていると言っても過言ではありません。特に観光産業は裾野が広く、ほとんどがサービス産業に属しています。地域の中小サービス業の雇用を維持するためには、観光を手段に地域経済の活性化を図ることがとても重要と言えます。
今、わたしたちにできること
わたしたちが観光を手段として地域経済に貢献できることはなにか?最後に、これについて考えてみましょう。
観光は、地域に根ざした産業です。観光資源は他には移転できません。富士山を北海道や沖縄に持っていって観光収入を得ることはできないのです。ひとつの解は、地元の良さを再発見する旅を始めてみることです。全国有数の面積をもつ静岡県の観光資源は、歴史的にも伊豆国・駿河国・遠江国の文化や風土が今もなお豊富に残っています。国の指針や地域の状況に合わせて、外出できるときは近場からぐるっと一周する散策を始めてみましょう。地域再発見の旅に出かけて消費することで、わたしたちの暮らしが良いほうに向かうのです。経済的な視点でわたしたちが今できる地域貢献のひとつは、地元の観光産業を盛り立てることなのです。アフターコロナの観光産業の復活こそが、地域経済に再生をもたらすのです。
広い世界を見渡すと観光産業を重要視する国の多いことに気がつきます。例えば、先進国のフランス・スペイン・イタリアをはじめ、大国アメリカ、開発途上国ではタイがそうです。エジプトなどは観光収入が途絶えると、国家の機能が麻痺すると言われています。一方の日本は、第二次世界大戦後の高度経済成長期を経て、ものづくりで世界のトップに昇りつめました。やがてアジア新興諸国の経済発展が、成熟化した日本の経済成長に影響をあたえます。バブル景気の崩壊をきっかけに、日本の経済は「失われた20年」とも揶揄されるほど低成長となりました。こういった背景のなかで、日本政府は2003年に観光立国宣言をします。後進の日本は、21世紀になって「観光」を経済の成長戦略の重要な産業に位置づけました。
しかし、いま人々の往来や交流で成り立つ観光産業は壊滅的な被害を受けています。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、突然、需要が蒸発したのです。観光産業は、これまで経験したことの無い危機的状況に陥っています。
それでは、もう少し詳しく説明を加えようと思います。
なぜ、地域経済の活性化にインバウンドが重要視されるのか
観光の意義は一般的に、①日本経済の成長戦略の柱②地方創生のカギ③自らの文化、地域への誇り④国際社会での地位向上、などが挙げられます。政府が始めた「ビジット・ジャパン・キャンペーン」のインバウンド(訪日外国人)観光客は521万人でした。2019年のインバウンドは3188万人、わずか15年で6倍を超えています。日本の観光産業は、これまで世界に類を見ないスピードで急成長を遂げています。さらに、国内旅行消費額でとらえてみましょう。2019年は総額で27.9兆円です。このうち、インバウンドが4.8兆円(17.2%)を占めるようになりました。今や日本は、観光先進国と言えるほどになっています。他方で、地域経済に目を向けてみます。現在、全国多くの地域は、少子高齢化や人口減少によって需要の先細りが懸念されています。つまり、インバウンドによる新たな需要が観光産業の発展だけではなく、地域経済の活性化に重要なのは言うまでもありません。
地域経済は中小サービス業の従業員が担っている
別の視点から地域経済を見てみましょう。ここでは、2つのポイントで説明します。1つ目は、日本の中小企業(小規模事業者を含む)の数に注目します。現在、約360万社あります。これは、日本の会社の実に99.7%を占めています。また従業員数も、中小企業の従業者が約70%を占めています。大雑把に言うと、地方は中小企業で成り立っており、大都市部に大企業が集まる構図です。2つ目は、産業構造別です。教科書で出てくる第1次・2次・3次産業の典型的な分類でみます。「産業構造の高度化」という経済学で用いる用語があります。産業の比重がその国の経済発展にともなって、第3次産業に重点が移動するというものです。第3次産業とは、非製造業、すなわち「サービス業(広義)」のことを指します。世界で最もサービス先進国はアメリカで、GDP(国内総生産)の80%ちかくを占めるほどです。この傾向に追随する日本の第3次産業は、現在70%を超えるあたりです。これら2つのポイントから何が言えるのか。もうおわかりですね。地域経済は、多くの中小サービス企業の経営如何によって強く影響を受けるのです。その中心的な推進者は、中小サービス業の従業員が担っていると言っても過言ではありません。特に観光産業は裾野が広く、ほとんどがサービス産業に属しています。地域の中小サービス業の雇用を維持するためには、観光を手段に地域経済の活性化を図ることがとても重要と言えます。
今、わたしたちにできること
わたしたちが観光を手段として地域経済に貢献できることはなにか?最後に、これについて考えてみましょう。
観光は、地域に根ざした産業です。観光資源は他には移転できません。富士山を北海道や沖縄に持っていって観光収入を得ることはできないのです。ひとつの解は、地元の良さを再発見する旅を始めてみることです。全国有数の面積をもつ静岡県の観光資源は、歴史的にも伊豆国・駿河国・遠江国の文化や風土が今もなお豊富に残っています。国の指針や地域の状況に合わせて、外出できるときは近場からぐるっと一周する散策を始めてみましょう。地域再発見の旅に出かけて消費することで、わたしたちの暮らしが良いほうに向かうのです。経済的な視点でわたしたちが今できる地域貢献のひとつは、地元の観光産業を盛り立てることなのです。アフターコロナの観光産業の復活こそが、地域経済に再生をもたらすのです。
執筆者 須佐淳司
地域貢献センター長・経営学部(草薙)准教授
(専門は観光・中小企業経営)