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Vol.8


不活動による悪影響に打ち勝つ

 新型コロナウイルスの蔓延により、4月16日に政府が全国に「緊急事態宣言」を発表してから、ようやく今月5月14日に39県で新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言が解除されました。しかし、まだまだ脅威は消えておらず、3密を避けるために自粛は必要となっています。
 この自粛によってどうしても身体活動が制限され、いわゆる運動不足になっている場合も少なくないと思われます。自粛期間としても、全国に出された緊急事態宣言から数えてみても1か月以上経過しています。Vigelsøら1)によると、運動をしない期間がわずか2週間続いただけで、筋力が若者で28%、高齢者で23%低下となっており、若者で約1/3、高齢者で約1/4というように大幅に低下することが報告されています。また、この失った筋力を取り戻すためには3倍以上の時間を要することも報告されています。
 さらに、痛みに関してみてみると、恐怖-回避モデル(fear-avoidance model)2)(図1)で表されるように、“動かすと痛い”という痛み体験から、ネガティブな思考が痛みへの不安・恐怖を増強させ、不必要な安静や不活動・抑うつなどを呈することでさらなる活動制限が生じ、痛み体験がさらに増強されるという“痛みの悪循環”が生じてしまいます。つまり、不活動により筋力低下や柔軟性低下が生じてしまい、身体の負担増加・動かしづらくなることで、より痛みを増強させてしまいます。

 慢性的な痛みに苦しんでいる方は日本で約1600万人といわれています。そのため、この自粛期間によって、体力が低下し、また、活動量が低下することで痛みが増悪していることも考えられます。
 そこで、身体活動を増加させていくことが必要となります。その際、たとえ痛みがあっても「できることを増やしていく」という考え方に変換することと、動きやすい身体にするという、身体面・心理社会面の両面をおこなうことが大事です。

 運動をしていく際に気を付けなければならないこととして、過負荷な運動によるoveruseがあります。一気にやりすぎてしまうと、逆に痛みが生じたり、痛みが増強してしまったりすることがあります。そのため、ペーシングといって、自分に適した運動強度・運動量をコントロールすることが必要です。その際、心拍数・歩数などが分かる活動量計を使用することで、「見える化」をすることで、自分のペースを把握しやすくなります。
 自宅でできる運動の例を下記に挙げます。ぜひ、少しの時間からでも可能な限り継続してみてください。まずは、柔軟性の向上として、簡単なストレッチですが、①太ももの前側の筋肉(大腿四頭筋)②太ももの裏側の筋肉(ハムストリングス)③ふくらはぎの筋肉(腓腹筋・ヒラメ筋)を軽く伸びていることを感じながら30秒おこなってみてください。また、軽い全身運動として、太ももを大きく挙げて、その場での足踏みを30回してみてください。可能なら縄跳びをすることもお勧めします。その際、軽く息は上がるが会話ができる程度から始めてみてください。さらに、日常の生活動作の中で、例えばテレビのリモコンの置き場所をいつもより遠くするなどの工夫することで、活動量を自然に上げることも効果的です。
 最近ではインターネットを通じて様々な運動も紹介されています。例えば、「おうちdeボッチャ」といった誰でも家で楽しめるスポーツもあります。ぜひ検索してみてください。

 このように、身体活動を維持していくことで、筋力低下や柔軟性低下を予防して、良循環を促すことで、痛みを生じにくい体つくり、新型コロナウイルスに負けない体つくりをしていきましょう。

参考文献
1)Vigelsø A, Gram M, et al: Six weeks' aerobic retraining after two weeks' immobilization restores leg lean mass and aerobic capacity but does not fully rehabilitate leg strength in young and older men. J Rehabil Med 47(6):552-60, 2015.
2)Vlaeyen JW, Linton SJ, et al: Fear-avoidance and its consequences in chronic musculoskeletal pain: a state of the art. Pain 85(3): 317-332, 2000.
執筆者 櫻井博紀
保健医療学部理学療法学科 准教授
(専門はリハビリテーション医学)

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