「新しい生活様式」とこれからの社会教育
生活様式とは
新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の提言以降、「新しい生活様式」が世間を賑わしていますが、この生活様式という用語、学問的には広狭さまざまな捉え方があります。この点について、本学関係では、白木賢信(2016)「学びが評価される生涯学習社会を目指して:生活様式変容の観点と方法論確立(インタビュー記事)」(『常葉の樹(常葉大学広報誌)』vol.3,pp.11-12所収)http://static.shizuoka-ebooks.jp/actibook_data/se1604060/_SWF_Window.html(2020年5月21日閲覧)で少し触れたことがありますが、
論文では、白木賢信(2007)「生活様式枠組と生涯学習研究」(日本生涯教育学会編『生涯学習研究e事典』所収)http://ejiten.javea.or.jp/contente385.html(2020年5月21日閲覧)でまとめたことがあります。
新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の提言以降、「新しい生活様式」が世間を賑わしていますが、この生活様式という用語、学問的には広狭さまざまな捉え方があります。この点について、本学関係では、白木賢信(2016)「学びが評価される生涯学習社会を目指して:生活様式変容の観点と方法論確立(インタビュー記事)」(『常葉の樹(常葉大学広報誌)』vol.3,pp.11-12所収)http://static.shizuoka-ebooks.jp/actibook_data/se1604060/_SWF_Window.html(2020年5月21日閲覧)で少し触れたことがありますが、
論文では、白木賢信(2007)「生活様式枠組と生涯学習研究」(日本生涯教育学会編『生涯学習研究e事典』所収)http://ejiten.javea.or.jp/contente385.html(2020年5月21日閲覧)でまとめたことがあります。
それによると、たとえば住居学では、類型的な生活過程の繰り返しの型、あるいは一定の生活手段を活用または消費して一定の状況のもとで生活にかかわる要求・目標等を実現していく営みと捉えています。経済学では、家族あるいは人間と生活手段の結合様式と捉え、その基本的要素として、家族、生活手段、消費サービス労働、生活時間、生活意識を挙げています。また社会学では、特定の社会または集団の成員が共有する生活の営み方と捉えており、文化人類学では文化と極めて類似した捉え方をしています。これらは広義のlife styleやlife modeとしての捉え方です。一方、地理学(特にフランス地理学派)では、知的・社会的な生活環境にかかわる技術またはその組合せという狭義の捉え方をしており、こちらはway of lifeになります。今回の「新しい生活様式」は生活における技術的側面の変革が期待されていることから、どちらかといえば狭義のほうの捉え方でしょう。
狭義の生活様式では、生活のすべての領域にかかわる技術またはその組合せで、それは生活におけるさまざまな領域と結び付いて表出されます。この領域は、生活を存続させるために必要な機能的条件で見れば、図の6領域が挙げられます(但し、Fの領域はその他の5領域とそれぞれ結び付きます)。生活様式は、この機能遂行のための技術ですので、各領域にいろいろな生活様式が存在します(もちろん複数の領域にまたがって表出する生活様式もあります)。
狭義の生活様式では、生活のすべての領域にかかわる技術またはその組合せで、それは生活におけるさまざまな領域と結び付いて表出されます。この領域は、生活を存続させるために必要な機能的条件で見れば、図の6領域が挙げられます(但し、Fの領域はその他の5領域とそれぞれ結び付きます)。生活様式は、この機能遂行のための技術ですので、各領域にいろいろな生活様式が存在します(もちろん複数の領域にまたがって表出する生活様式もあります)。
生活様式の変容にかかわる社会教育
学習を「一定の活動により、考え方または行動様式を変容(形成を含む)する過程」と定義すると、生活の中で表出される行動様式は生活様式そのものですので、生活様式の変容は学習の1側面となります。そのような学習を支援する働きかけや営みのうち、学校教育および家庭教育を除くすべてが広義の社会教育(social education)です。
社会教育は、その前身の通俗教育の時代から、時代や地域などの要請に応じてさまざまな学習の支援を行っています。生活様式に限れば、たとえば家電がほとんど普及されていない時代にあって、家事にかかわる生活様式は一般家庭では死活問題でしたので、食材の保存法や台所整理法などが奨励されていました(これは図のBの領域にあたります)。また、高度成長期を経て余暇活動の充実がいわれた頃には、その1つとしてスポーツの仕方を身につけるための機会提供により、生活の意味付け・動機付けの生活様式を充実させてきました(これはFの領域です)。最近では労働者の働き方改革が求められていますが、それは仕事に関する生活様式ですのでBの領域の変革を迫るものでしょう。
「新しい生活様式」を支える社会教育の在り方
「新しい生活様式」が提言されてからよく聞かれる声の1つとして、これは一時的なものなのか、この先ずっと続けなければならないものなのかという疑問です。その点について、筆者は「新しい生活様式」は2層に分かれるのではないかと考えています。
第1は、いわゆるコロナ禍のみで求められる「表層的な生活様式」です。たとえば、現在自粛あるいはオンラインでの楽しみ方に偏っている文化・芸能・スポーツ活動などは、アフターコロナにあって多少の工夫はあるとしても現地での楽しみ方が戻ってくるでしょう。
一方、第2の今後も継続されていくであろう「深層的な生活様式」について、たとえば、テレワークを組合せた働き方(Bの仕事にかかわる領域)、手洗いや消毒など衛生環境の保ち方(Aの健康の維持にかかわる領域)、さらにはオンラインを組み込んだ教育・学習の方法(Dの教育にかかわる領域)などは、アフターコロナに入っても引き続き定着していくと思われます(もちろん、これらもさらなる新時代では使われなくなるかも知れません)。
一般に生活様式は、反社会的(盗みの仕方などは犯罪ですので、ここでいう生活様式に含まないということです)なものを除けば没価値的なものですので、その時その時にあわせて在り方が変わっていきます。これからの社会教育の存在理由(raison d'être)は、この第2の生活様式の習得や変革にいかに貢献していくかにかかっているのではないでしょうか。
執筆者 白木賢信
教育学部生涯学習学科 教授
(専門は生涯学習)
教育学部生涯学習学科 教授
(専門は生涯学習)