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Vol.20


今だから濃厚な接触について考える -こどもと「触れる」というコミュニケーション

「他者との『濃厚接触』を避ける」

この2,3か月で、この言葉を何度聞くことになったでしょう。触れていなくても、一緒に食事をするのも「濃厚接触」。外出が自粛され、できるだけ他者と直接に関わらないで暮らすことが求められるようになりました。


家族との接触をともなうコミュニケーション

 しかし、そんな中で「子どものいる家庭」という単位で考えると、この間「濃厚接触」の機会は増えたのではないでしょうか?
2019年、連合による調査によれば、父親は週平均47時間就労し、厚生労働省の国民生活基礎調査では母親の72.2%が就業しているとのことです。普段なら平日に家族が集まるのは朝と夜の数時間。それぞれ、園や学校、仕事など別の社会で過ごしている時間の方が長かったわけです。しかし、この数か月の間、子どもは休校・登園自粛、大人も休業やテレワーク推進と、家庭内で過ごす時間が長くなった家庭が増えたのは間違いなく、そうなれば、良し悪しは別として、コミュニケーション量は必然的に増えていると考えられます。

我が家もその典型。子どもたちは保育園・児童クラブにお世話になり、平日帰宅後一緒に過ごすのは寝るまでの3,4時間程度でした。平日家族全員が一緒になることは朝食時の数十分程度。それでも、それが日常であり、当然であり、一緒にいる時間は直接的に触れ合うことは多く、特に不足・不満・不安も感じてはいませんでした。
コロナ禍で長々と続く春休み(?)の中で、娘たちが始めたのが、布団の上での「こちょこちょ大会」。ただそのまま、本気でのくすぐりっこです。濃厚接触以外の何物でもない…。本気なので、子どもたちは大笑いでキャーキャー喜び、叫び声のよう。いつもは寡黙な父親の笑い声まで聞こえる。うるさすぎて近所迷惑ではなかろうか心配したほどでした。

私達両親と子ども達とは、これまでも間違いなく関わってはいたはずですが、実際に直接「接触する」ことはどの位あったのだろう?一緒にお風呂に入る、布団を並べて寝る、出かけるときに手をつなぐ、などは続いているにしても、子どもが成長するにつれて、授乳・だっこ・おんぶ・添い寝・おむつ替え・頭や体を洗うことや着替え…と、直接肌の接触を伴う世話は激減し、時間は極端に短くなっていたことに気づかされました。


心理学的に見てみると

発達心理学の分野で「アタッチメント」という考え方があります。これまでは「愛着」と訳されることが多かったのですが、日常用語「愛着」とはニュアンスの違いがあり「アタッチメント(=くっつく)」とそのまま使われるようになってきました。人が安心、安全感を得るために、特定の他者にくっつこうとする生まれつき備わった行動の仕組みのことです。赤ちゃんの時期から、びっくりしたり、怖かったり、不安になったりしたら、大好きな人にくっつき、安心すると自ら動き出す…という繰り返しのことですね。小さい頃は、だっこのように直接的にしっかりとくっついて、だんだんと手をつないだり、頭をなでてもらったりと形を変えて発達していきます。
また、肌が触れ合うことで、幸せホルモンなどとも呼ばれる「オキシトシン」が分泌されて情緒が安定したり、ストレスが減るなどということも、近年NHKも取り上げていましたね。他にも、子どもたちにスキンシップを増やしたり、集団の中で触れ合いあそびを継続することで、行動に落ち着きが見られるようになるといった研究もあります。
子どもたちには、人には「接触」が必要なのです。


人が触れあうことは互いの安心につながっています

「だっこだっこ!」とせがんだり、家事をしているとまとわりついてきたり、テレビを見ていると膝の中や狭いところに割り込んできたり、顔を寄せ合って本を読んだり…ケンカのようになりながらも、子どもたちは、このコロナ禍での状況に、本能的に「触れること」、「くっつくこと」を求めているのかもしれません。求められているのだとしたら、めいっぱい触れ合いましょう。子どもが幼いなら、なおさらたくさん!!大きく育った子どもたちや大人同士なら、肩に手を置くだけでも、肩を並べて話すだけでも。
そう言っても、「他者との接触は、避けなければいけない」と言われるだろうと思います。でも、家族は他者ではなく、特定の他者なのです。休校や登園自粛が解かれ、出勤数も増え、外部との接触が増えて来た状態では、親子の接触だって危険と批判されるかもしれないですね。
もちろん、丁寧な手洗い、マスクの着用など、外部との接触には注意した上でと条件が付くでしょうが、「特定の他者との接触は避けてはいけない」のだと思うのです。


*参考文献
・遠藤利彦(2017) 『赤ちゃんの発達とアタッチメント』ひとなる書房
・山口創(2004)『子供の「脳」は肌にある』光文社新書
執筆者 馬飼野陽美
短期大学部保育科 講師
(専門は保育学・心理学)

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