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Vol.24


コロナウィルス対応から見える行政経営における意思決定の難しさ

 行政経営を研究領域とする立場から、コロナウィルスと行政経営について、少し考えていきたいと思います。

 コロナウィルスに関する報道が連日続く中で、これほど地方自治体の首長が、全国紙・全国ネットのテレビ報道に取り上げられることは、これまでなかったように思います。東京都の小池知事、大阪府の吉村知事、神川県の黒岩知事をはじめとして、多くの知事の発言に注目が集まりました。緊急事態宣言が出される中で、各知事に一定の判断が委ねられることとなり、知事の判断が大きく住民に影響を与える状況となりました。また、県境をまたぐ往来が禁止されるという今まで経験したことがない状況は、住民に改めて都道府県という単位を認識させることになったのかもしれません。もちろん、市町村単位においても、御殿場市の対応などは、全国的にも大きく注目を浴びました。
 首長のリーダーシップ、判断がいかに地方行政において重要か。このことを国民が実感したという意味において、今回のコロナウィルスは、今後の地方自治の大きな転換点になるかもしれないと考えています。

 一方で、コロナウィルスは地方行政における意思決定という点において、非常に困難な課題があることを明らかにしたと感じています。それはリスクのある環境下において、リスクを管理しながらいかに行政意思決定を行うかということです。ここでいうリスク管理とは、いわゆる危機管理とは少し異なるものです。
 例えば、企業経営においても意思決定には常にリスクが伴います。すべての意思決定においてリスクを0にすることはほぼ不可能であり、どの手法も選択しないという回避だけがリスクを0にする可能性を残しています。しかしそれは、その意思決定によって損害が発生することを取り除いただけということで、目に見えないその他の損害が発生していることがしばしばあります。どの新製品を開発し販売するかという意思決定において、どの新製品を選んでも販売不振による損失という一定のリスクは伴います。しかしながら、新製品を販売しないという回避の意思決定は、新製品販売による損失というリスクは回避できても、企業の将来的発展という視点では大きな損害の原因となる可能性があるということです。
 リスク管理で大切なことは、リスクを認識し、適切に評価し、対応することだとされています。この評価には、失敗の発生可能性と損失額、成功した時の便益、という要素が含まれます。失敗の発生可能性が高く、損失が大きい場合、それを選択することは考えられません。逆に失敗可能性が低く、損失も小さい場合は、当然それが選択されます。しかしながら、失敗の発生可能性が低く、損失額が大きい場合はどうでしょうか?これは極めて難しい判断となります。さらにこれに成功した時の便益も要素に含めると、より難解な判断であることがわかります。

 行政経営においても、このリスクを認識しながら意思決定を行うことが重要だと私は考えています。しかしながら、行政経営においてこのリスクを認識し意思決定を行うことは、民間企業より困難であると感じています。それは「行政は失敗してはならない」という、暗黙の認識が行政側、国民側にあるからだと思います。民間企業の例で示した通り、意思決定においてリスクが0になることはほとんどありません。つまり一定のリスクは受容せざるをえないのが意思決定の宿命なのです。ここで「失敗してはならない」という認識が強く働くと、限りなくリスクが0のものしか選択できないというジレンマが発生します。これが行政の意思決定を困難にさせる大きな課題なのではと感じています。
 今回のコロナウィルスに対する行政の意思決定においても、いつ、どのタイミングで、いかに日常生活や経済活動を再開させるかという点に注目が集まりました。コロナウィルスには人の命を奪うという大きな損失が伴います。しかしながら、日常生活や経済活動を再開させなければなりません。この場合、損失の発生可能性をできるかぎり抑制しながら、損失が発生した場合の対応を同時に考えることが重要なのです。しかし、発生可能性をできるかぎり0にするという意識が強すぎる場合、結果として適切でない意思決定が行われることになるのではないでしょうか。この意識が強く働きすぎて回避を選択した場合、違った損失が発生することになるということが考えられるのです。

 行政が誤った判断をしないように監視し、場合によってはその行動を抑制することが国民には求められます。一方で、行政の意思決定に伴うリスクをともに享受し、リスクが現実化した場合にはともにそれに対応していくという考えも、国民側に必要なのではなのでしょうか?このことをコロナウィルスに関する一連の行政対応を見て感じています。
執筆者 酒井大策
経営学部(浜松キャンパス) 准教授
(専門は会計学)

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