ニューノーマルを先導するテレワーク ~働き方改革から生き方改革・社会改革へ~
日常用語となったテレワーク
テレビ・新聞・インターネットからJRの駅のアナウンスまで、日常の至るところで、「テレワーク」という言葉を見たり、聞いたりするようになりました。
筆者は、縁あって1990年代後半からテレワーク関連の様々な調査研究に携わり、中央官庁の政策検討や普及推進のお手伝いをしてきました。しかしながら、テレワークの認知度はなかなか上がらず、首都圏の大企業では普及したものの、地方圏、中小企業ではほとんど進まないという状況が長く続いていました。期せずしてこのような日が一気に来てしまうとは、驚きとともに感慨深く受けとめています。
テレワークの基礎知識
テレワークは、「ICTを活用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」です。
自宅を就業場所とする「在宅勤務」だけでなく、新幹線や空港などの移動中、カフェなどを就業場所とする「モバイルワーク」、所属するオフィス以外の他のオフィスや施設を就業場所とする「サテライトオフィス勤務」の総称がテレワークです。
このうち新型コロナ対策として、ソーシャル・ディスタンスが確保でき、感染リスクを回避するため、政府・自治体が推奨してきたのは在宅勤務です。
BCP(事業継続性の確保)、パンデミック対策としてのテレワーク
テレワークの実践は、個人、企業、社会にとって様々な効果があるといわれてきました。新型コロナ感染拡大以前は、労働力減少、都市と地方の格差を是正する解決策としてテレワークは「働き方改革」「地方創生」を牽引し、個人にとってはワーク・ライフ・バランス、企業にとっては生産性向上、優秀な人材の維持・確保等を実現する手段として、府省連携・産業界と協働で普及推進を進めてきました。「テレワーク・デイズ」もその1つです。本年開催される予定だった東京5輪開催における交通混雑への対策としてテレワークを実践し、多様な働き方をレガシーとして残す国民的運動です。昨年の「テレワーク・デイズ2019」(7月22日~9月6日)に参加した企業・団体数は2,887(前年比約1.7倍)、参加者数は約68万人(同約2.2倍)に上りました。
そして、テレワーク・デイズに参加し、予行演習を実施してきた企業は、緊急事態宣言の前後からBCP(事業継続計画)対策として速やかにテレワークの実践拡大に踏み切りました。実施してこなかった企業も、社員の安全を確保し、事業継続をするために、手探りで導入をはじめています。
持続可能な個人・企業・社会の実現へのシナリオ
BIGLOVE調査(※)によると、「新型コロナウイルスの流行を機に在宅勤務などのリモートワークが定着すると思うか」の質問に対し、定着する可能性がある(「定着すると思う」「一部では定着すると思う」の計)と回答した割合は、8割強(83.9%)に上っています。
(※)2020.3.13~3.15に実施。直近3週間で週に1日以上在宅勤務をしている全国の20代~60代男女1,000人を対象としている。
5月26日の「緊急事態宣言解除」を受けて、NTTグループは「在宅勤務50%以上」、日立製作所は、2021年4月から社員3万3000人の約7割を週に2~3日を在宅勤務にするという全社方針を打ち出しました。
図表1は、持続可能な個人・企業・社会の実現へのシナリオを示しています。
今後、企業においては、情報通信環境の整備、業務の革新、労務管理制度・ルールの整備、オフィスの改革が進むでしょう。感染防止策やソーシャル・ディスタンスは必須条件として組み込まれています。あわせて個人は、リモート環境でも成果が出せるよう、自律・自己管理力を持ち、主体性の確立が求められます。そしてチーム・ビルディングも重要です。離れていても他者を配慮し、相互に支援する組織風土の醸成が求められます。
社会人になる前に、教育現場も情報リテラシー教育の徹底と、個人の自律性・自己管理力、主体性を高める教育が求められます。分散する多様な人材と一緒にプロジェクトを推進するためのノウハウや他者配慮・相互支援の精神を育むことも重要です。
ビジネスのシーンでは、これまでは対面でしかできないと思われていた営業、接客、商談などもweb会議ツールを活用して行われるようになりました。就活プロセスにもweb面談が当たり前になっています。最初は戸惑いをみせていた4年生も新しい方法に慣れ、応募先企業の選択肢も拡がりつつあります。環境変化、不測事態はいつやってくるかわかりません。状況に応じた柔軟性、変化への対応力を身につけることが必要です。
テレワークのデメリットとして、「仕事とプライベートの区別がつかない」「運動不足」があげられます。長期化することによって、さまざまなストレスが生まれています。
仕事に集中できるように、広くなくても良いので書斎が欲しいというニーズに対応し、大和ハウス工業、ミサワホーム等の住宅メーカーは、住宅におけるワークスペースのデザイン設計に着手したようです。
働く、学ぶ、遊ぶ、交流する。自宅がさまざまな機能を合わせもつことで、オンもオフも楽しく快適に過ごすためのノウハウの共有が進み、あわせてさまざまな商品・サービスの開発も進んでいくでしょう。
テレワークのメリットとして、通勤時間がなくなり、自由な時間・自己啓発の時間が生まれています。大都市の過密を避けて、地方への移住を考えたり、Uターンの時期を早めようとする人も出はじめているようです。テレワークの普及によって、副業・兼業、暮らし・労働の場所の選択肢はますます拡がっていくものと考えられます。
今後は徐々に郊外への都市機能の分散が進み、観光産業も国内を中心に少しずつ復興し、地元住民や近隣からの観光客により地域資源の再発見とともに地方創生も新たな展開がみられるようになるのではないでしょうか。
ニューノーマルの潮流が私たちの生活、人生をどのように変えていくのか、自ら意識を変え実践しながら、見届けていきたいと思います。
テレビ・新聞・インターネットからJRの駅のアナウンスまで、日常の至るところで、「テレワーク」という言葉を見たり、聞いたりするようになりました。
筆者は、縁あって1990年代後半からテレワーク関連の様々な調査研究に携わり、中央官庁の政策検討や普及推進のお手伝いをしてきました。しかしながら、テレワークの認知度はなかなか上がらず、首都圏の大企業では普及したものの、地方圏、中小企業ではほとんど進まないという状況が長く続いていました。期せずしてこのような日が一気に来てしまうとは、驚きとともに感慨深く受けとめています。
テレワークの基礎知識
テレワークは、「ICTを活用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」です。
自宅を就業場所とする「在宅勤務」だけでなく、新幹線や空港などの移動中、カフェなどを就業場所とする「モバイルワーク」、所属するオフィス以外の他のオフィスや施設を就業場所とする「サテライトオフィス勤務」の総称がテレワークです。
このうち新型コロナ対策として、ソーシャル・ディスタンスが確保でき、感染リスクを回避するため、政府・自治体が推奨してきたのは在宅勤務です。
BCP(事業継続性の確保)、パンデミック対策としてのテレワーク
テレワークの実践は、個人、企業、社会にとって様々な効果があるといわれてきました。新型コロナ感染拡大以前は、労働力減少、都市と地方の格差を是正する解決策としてテレワークは「働き方改革」「地方創生」を牽引し、個人にとってはワーク・ライフ・バランス、企業にとっては生産性向上、優秀な人材の維持・確保等を実現する手段として、府省連携・産業界と協働で普及推進を進めてきました。「テレワーク・デイズ」もその1つです。本年開催される予定だった東京5輪開催における交通混雑への対策としてテレワークを実践し、多様な働き方をレガシーとして残す国民的運動です。昨年の「テレワーク・デイズ2019」(7月22日~9月6日)に参加した企業・団体数は2,887(前年比約1.7倍)、参加者数は約68万人(同約2.2倍)に上りました。
そして、テレワーク・デイズに参加し、予行演習を実施してきた企業は、緊急事態宣言の前後からBCP(事業継続計画)対策として速やかにテレワークの実践拡大に踏み切りました。実施してこなかった企業も、社員の安全を確保し、事業継続をするために、手探りで導入をはじめています。
持続可能な個人・企業・社会の実現へのシナリオ
BIGLOVE調査(※)によると、「新型コロナウイルスの流行を機に在宅勤務などのリモートワークが定着すると思うか」の質問に対し、定着する可能性がある(「定着すると思う」「一部では定着すると思う」の計)と回答した割合は、8割強(83.9%)に上っています。
(※)2020.3.13~3.15に実施。直近3週間で週に1日以上在宅勤務をしている全国の20代~60代男女1,000人を対象としている。
5月26日の「緊急事態宣言解除」を受けて、NTTグループは「在宅勤務50%以上」、日立製作所は、2021年4月から社員3万3000人の約7割を週に2~3日を在宅勤務にするという全社方針を打ち出しました。
図表1は、持続可能な個人・企業・社会の実現へのシナリオを示しています。
今後、企業においては、情報通信環境の整備、業務の革新、労務管理制度・ルールの整備、オフィスの改革が進むでしょう。感染防止策やソーシャル・ディスタンスは必須条件として組み込まれています。あわせて個人は、リモート環境でも成果が出せるよう、自律・自己管理力を持ち、主体性の確立が求められます。そしてチーム・ビルディングも重要です。離れていても他者を配慮し、相互に支援する組織風土の醸成が求められます。
社会人になる前に、教育現場も情報リテラシー教育の徹底と、個人の自律性・自己管理力、主体性を高める教育が求められます。分散する多様な人材と一緒にプロジェクトを推進するためのノウハウや他者配慮・相互支援の精神を育むことも重要です。
ビジネスのシーンでは、これまでは対面でしかできないと思われていた営業、接客、商談などもweb会議ツールを活用して行われるようになりました。就活プロセスにもweb面談が当たり前になっています。最初は戸惑いをみせていた4年生も新しい方法に慣れ、応募先企業の選択肢も拡がりつつあります。環境変化、不測事態はいつやってくるかわかりません。状況に応じた柔軟性、変化への対応力を身につけることが必要です。
テレワークのデメリットとして、「仕事とプライベートの区別がつかない」「運動不足」があげられます。長期化することによって、さまざまなストレスが生まれています。
仕事に集中できるように、広くなくても良いので書斎が欲しいというニーズに対応し、大和ハウス工業、ミサワホーム等の住宅メーカーは、住宅におけるワークスペースのデザイン設計に着手したようです。
働く、学ぶ、遊ぶ、交流する。自宅がさまざまな機能を合わせもつことで、オンもオフも楽しく快適に過ごすためのノウハウの共有が進み、あわせてさまざまな商品・サービスの開発も進んでいくでしょう。
テレワークのメリットとして、通勤時間がなくなり、自由な時間・自己啓発の時間が生まれています。大都市の過密を避けて、地方への移住を考えたり、Uターンの時期を早めようとする人も出はじめているようです。テレワークの普及によって、副業・兼業、暮らし・労働の場所の選択肢はますます拡がっていくものと考えられます。
今後は徐々に郊外への都市機能の分散が進み、観光産業も国内を中心に少しずつ復興し、地元住民や近隣からの観光客により地域資源の再発見とともに地方創生も新たな展開がみられるようになるのではないでしょうか。
ニューノーマルの潮流が私たちの生活、人生をどのように変えていくのか、自ら意識を変え実践しながら、見届けていきたいと思います。
図表1-持続可能な個人・企業・社会の実現に向けて
執筆者 小豆川裕子
経営学部(草薙キャンパス) 准教授
(専門は知識資産経営、地域経営)
経営学部(草薙キャンパス) 准教授
(専門は知識資産経営、地域経営)