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Vol.30


発達障害児と保護者が楽しく過ごしてストレスを緩和するスヌーズレン・テントの実践

感染症拡大の中、障害のある子どものいる家庭の抱える問題

新型コロナウイルスの感染症拡大に伴って、発達障害の子どもとその保護者が心身ともに追いつめられているケースが報告されています。東京新聞TOKYO Web掲載記事「≪新型コロナ≫発達障害児、窮地 在宅でリズム崩し自傷 親もストレス懸念」(2020年6月5日参照)から引用します。
・「妻も精神的に限界。せめて週に一回でも特別支援学校に預けられたら」。小学3年生の長男が発達障害という都内の男性会社員(52)は厳しい現状を訴えている。また「息子は外に出られな いストレスからか、自分の頭をたたいたり、突然泣いたりする。学校があれば体を動かせるし、妻も少しは休めるのだが」。
・小学3年生の長男を特別支援学校に通わせる母親(49)は週1回の一時預かりや週数回のデイサービスを受けられるが、「学校に行けば規則正しい生活になるが、自宅では親への甘えもあり生活のリズムがぐちゃぐちゃ。学校で学べる社会性や集団行動が身に付けられず、とても心配」。
同級生には自傷行為を繰り返す子も出ており、母親は「親も子も、皆追い込まれている」と訴える。
・発達障害教室の代表(51)は、「発達障害の児童は親でも意思疎通が十分にできないことがあり、自粛が続くと親のストレスが、虐待につながるケースもある。政府は、障害がある児童の家庭にも目を向け、一時預かりや校庭開放など、柔軟な対応を学校側に求めてほしい」と話す、等々。

学校の再開が6月頃から開始されましたが、今後、感染症拡大の第2波、第3波が来た時には、これまでと同じ自粛生活に戻ることが十分に考えられます。学校での子どもの一時預かりや校庭開放といった保護者の要望は、政府や自治体で十分に検討し、今後適切な対応が求められています。
以下、発達障害の子どもと保護者のストレスを家庭でも緩和できる方法について述べます。親子ともに、ストレスを少しでも軽減して落ち着いた日々を送ることは、虐待防止の上でも大切です。


心を癒しリラックスを導く「スヌーズレン・テント」の実践とその効果

筆者は2013年に「スヌーズレン教育」の概念を提唱し、現在特別支援学校や通常学校でその実践が展開されています。スヌーズレン(Snoezelen)は、視覚や聴覚、嗅覚など人の五感を適度に刺激する環境を部屋の中に作り出し、利用者(子ども)と介助者(指導者)が楽しい時間を共有して、やすらぎやリラクゼーションを導く活動として始まりました。元々は1970年代後半にオランダの重度知的障害者施設で始められた取組みでしたが、筆者はこれを学校教育に導入して、新たに「スヌーズレン教育」を提唱しました。これまでの研究から、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)などの発達障害の子どもたちは、周りを囲んだ狭い空間の中で過ごすことで、気持ちを落ち着かせ、リフレッシュすることができ、次の授業に参加しやすくなることが報告されています。この中から発達障害や不登校の子どもに有効な「スヌーズレン・テント」の取組みを紹介します。
うす暗くした部屋の中に(遮光性の)テント(3千円位)を置いて雑音を極力除き、その中で本人と保護者が、ブラックライト(5千円位)を使って蛍光教材(100円)を美しいさまざまな色に光らせます。
リラックスする好きな曲と心地よい香りを使うとなお良いです。こうした空間で自由に楽しく過ごし、本人と保護者が言葉だけではなく五感を使ったさまざまな交流をする時間をもつことが「スヌーズレン・テント」の取組みです。もちろんこのテントの中で、本人が一人で過ごすこともできます。
これまでの研究で、小学校の通級指導教室での10~20分ほどの短時間の取組みでも効果があることが報告されています(東・姉崎, 2017)。効果としては、子どもの心の緊張がほぐれて、心の落ち着きや表情の明るさを取り戻し、不登校児が再登校に至ったケースなどが報告されています。 
今後、コロナウイルスの感染が再拡大して学校が再度休校になった際、家庭の中に小さなスペースであっても、市販のテントを置いて、その中で子どもの興味のある蛍光教材などを光らせて、楽しく過ごす取組みは、元気のない子どもの気持ちを開放して明るくしてくれます。家庭で親子で楽しく取組みながら、お互いのストレスを発散させるこの方法は、発達障害の子どもばかりか、健常の子どもや保護者にとっても、心が癒されてリラックスするのに有効であると思われます。

(引用・参考文献)
・東 法子・姉崎 弘(2017)集団への適応を目指した社会不安障害のある児童へのスヌーズレンの授業―小学校の通級指導教室での実践を通して―. スヌーズレン教育・福祉研究, 1, 67-77.

スヌーズレン・テント

さまざまな色に美しく光る蛍光教材

執筆者 姉崎 弘
教育学部初等教育課程・特別支援教育 教授
(専門は特別支援教育・スヌーズレン教育)

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