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Vol.36


実際の生命に触れる:親子で生命を育てて美味しく食べよう

 「遊びを通した保育」とも言われるように、幼児教育では、視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚の五感を通した直接体験を通し、子ども達の感性、感情、興味関心などに影響を与え、心身を成長させていきます。
 一方、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で幼児教育から社会人まで、間接的な体験やコミュニケーション、情報収集などがさらに増えていきました。これからのグローバル化、AI化により、子ども達が大人になるときには、さらにこのデジタル社会は進んでいくことでしょう。これは、悪いことではないのですが、将来デジタル社会の中で生き抜くためには、リアルとバーチャルの違いを踏まえて生きる力が必要になってくるでしょう。そのためには、これまで以上に、直接的な体験が幼児教育の中で、求められていくかもしれません。
 しかし、現在でも間接体験増加の課題が出てきていると言われています。その一つに生命を安易に扱ってしまっていることが挙げられています。
 「生命を大事にしなさい」という言葉は、簡単に発することができてしまう言葉です。しかし、「命は命からしか学べない」といわれるように、子ども達が生命の大切さ、重要さを実感するには、言葉だけで伝えるだけではなく、繰り返し様々な生命に直接関わっていくことで実感していくものでしょう。


育てて作って食べる「食農保育」

 過去の2008年度版保育所保育指針、領域「環境」の内容の中に「身近な動植物に親しみを持ち、いたわったり、大切にしたり、作物を育てたり、味わうなどして、生命の尊さに気付く」という文章があり、以前は育てて食べることに関して多くの保育所では行われていました。そして、この作物を育てて作って食べる保育を保育現場では、「食農保育」と呼んでいます。
 「食農保育」は、生長する生き物から生命を、人と協力して育てて作って食べる楽しさ、生命をいただいて生きていることなど、多くのことを学んでいきます。また、地域の特産物を小さいうちから触れていくことで将来の地域愛や伝統文化の大切さにも繋がっていくのです。しかし、実際に園に行ってみても、町中の園は、畑を作るスペースがなく行われていなかったり、園から離れたところに植えて収穫するだけだったりというところもあるのです。
 もともと、子ども達は小動物や昆虫など、動くものに関しては生命があるとわかりやすいですが、動かない植物について生命があるとは捉えにくいものです。しかし、植物の生長を観察することによって、生命があることに気づくという研究結果がでています。そして、生命の循環を支える種についても、種を赤ちゃんと例えたり、種は命があるんだろうかと子どもなりに考えたりしていくことによって、生命があると考えられるようです。
「体験あって学びなし」という言葉があります。体験するだけで、何も学びがないことをさします。栽培という直接体験を通しながら、見たり考えたりすることが必要なのです。


親子で育てて食べることはいいこといっぱい

 保護者の方が一緒に水をあげたり、葉の大きさや生長を見たり、言葉を投げかけたりすることで、子ども達は植物の生命を感じ取るのです。さらに一緒に植物の生長を喜んだり、食べたりといった行動で、生き物への興味は増し、親子の愛着も深まるでしょう。
もともと「いただきます」の「いただく」は、位の高い人から物を受取るときに、頭の上にかかげたことから使われるようになったと言われています。つまり食べ物は、それだけ、大切なものであるという意味があると考えられます。その生命をいただいて生きているということを親子で味わうことは素敵なことだと思います。
 北海道文教短期大学の古都先生によると「『みんなで食べること』は,共食の楽しさとして思い出として残り」やすいとし、「『食べ物の栽培』は思い出として印象に残りやすい傾向を示したと思われる」といっています。


家の中で簡単にできる「水耕栽培」

 コロナウイルスの流行で4月からの園の栽培体験はできなくなりました。つまり、春からの種まきや苗植えそして、その生長を見る機会は失われたと言えます。さらにこれからも家で過ごすことも多くなるかもしれません。
 そこで、簡単に楽しく、家の中の「水耕栽培」をすることをお勧めします。家にあるのもや100円ショップと言われるようなところで材料は簡単に手に入ります。スポンジやキッチンペーパー、水切りカゴやペットボトルなどを使って、簡単に育てることができます。
 もし保護者の方が心配であるのであれが、検索サイトや動画サイトで「かんたん 水耕栽培」などのワードで調べると様々なやり方が紹介されています。
 水耕栽培は土の中で見えないところが改めて見えることもできるといった利点もあります。再生野菜と呼ぶ大根やニンジンの葉の部分を水につけて変化を見るのも楽しいです。
 そして、「○○と比べてどうなったかな?」「生きてると思う?」「なんでだと思う?」など投げかけてください。答えを出す必要はありません。間違っていてもいいのです。自分なりの考えをもつことが大切です。小学生になれば理科で科学的なことは学べるのです。そして、「なるほど」などその子どもが発する言葉に共感してあげてください。
 ぜひ深く考えずお子さんと一緒に試すことをお勧めします。
 どうなるんだろう?など一緒に考え、一緒に育て、一緒に美味しく食べることも楽しいと思います。
執筆者 中村俊哉
健康プロデュース学部こども健康学科 准教授
(専門は環境教育)

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