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Vol.40


絵本を読んでみましょう

 絵本は、声にだして読まれることを求めています。子どもが文字を読めるようになったとしても、絵本を読んでやることが大切です。また、声に出して読むことで、魅力がさらにます絵本があります。
『おおきなかぶ』や『てぶくろ』といった定番の絵本にくわえて、『おさるとぼうしうり』(E・スロボドキーナさく・え、松岡享子訳、福音館書店)『おおきな おとしもの』(H.C.アンデルセン原作 ジャン・ウォール文、レイ・クルツ絵、ともちかゆりえ訳、ほるぷ出版)もそのような絵本です。


おさるとぼうしうり
『おさるとぼうしうり』は、おさると帽子売りの帽子をめぐるひと騒動です。帽子売りは、自分のチェックの帽子の上に、ねずみ色、茶色、空色、赤色の帽子をのせて「ぼうし、ぼうし、ひとつ50えん!」と言いながら売り歩きます。
ある日、帽子売りは、帽子を頭にのせたまま昼寝をしました。起きてみると、帽子がありません。
「みぎをみても、
 ない。
 ひだりをみても、
 ない。
 うしろをみても、
 ない。
 きのうしろをみても、
 ない。
 ところが、きのうえをみあげると、これはまあ、どうでしょう!
 えだというえだに、おさるがいました。そして、おさるというおさるが、ぼうしをかぶっていました。」

 「ない」のところは、行を改めて書かれています。「みぎをみても」のあとに「間」を置いてみますと、 次の「ない」という言葉が、聞き手の子どもの心をくすぐります。ここは子どもに言わせて見るのも面白いところです。ユーモアの味もあります。言うまでもありませんが、帽子売りは、最後に帽子を取り戻しました。


おおきな おとしもの
『おおきな おとしもの』の原作はアンデルセンです。タイトルの『おおきな おとしもの』ってなんでしょうか? テーマでもあり、読者への仕掛けでもある題名です。
おばさんが、1羽のめんどりと暮らしていました。めんどりの産んだ卵が12個になったとき、おばさんは町に売りに行きます。卵の入った籠は頭の上。(ここが伏線。)心はうきうき。夢が広がります。おばさんの空想がはじまります。
卵を売ったお金で、めんどりを2羽買うわ。そうしたら、卵はいっぱいに。今度はめんどりを3羽買うわ。卵はもっといっぱいに。おおきな鳥小屋を建てなきゃ。なんとわたしはりこうもの! ひつじも、がちょうも、豚や牛も飼うわ。わたしは、たいへんなお金持ちよ。おおきなお屋敷に住むわ。すてきな男の人と結婚し、おおきな農場のご主人さまになるわ。(でも、みんな空想です。)
みんなの前でおおいばり。鼻をつーんと上にむけて歩くのさ!
そのとたんに彼女は本当に鼻を上にむけてしまったのです。頭の上には? 卵がありました。ぴっしゃ-ん!!・・ 残ったのは、一羽のめんどりだけでした。

 取らぬ狸の皮算用。結末はなんとなくわかっていましたが、それでもおかしいおはなしです。また、空想なのに、空想が妙に現実的なところも笑えます。「おおきな おとしもの」の意味もわかりました。卵だけではなかったんですね。落としたものは。
さて、地の文をかたる語り手は、途中からおばさんに同化していきます。絵本を読む読み手も、このおばさんになって読んでいきます。おばさんと語り手と読み手は一体化。三位一体です。ここが読みかたりの楽しく面白いところです。


 アイリーン・コルウェルは「語り手にとって、ことばは、作曲家にとっての音符、画家にとっての絵の具と同じです」(『 子どもたちをお話の世界へ』松岡亨子ほか訳 こぐま社)と言っています。
言葉は音声のなかで生きてきます。読み手が、絵本にいのちを吹き込んでください。トーン、イントネーション、間、読みのテンポで絵本を彩り描きだしてください。声に出して絵本を読むことは、素材(絵本)を生かして美味しい料理(読みかたり)を作る楽しみに似ています。
新型コロナウイルスの影響でいろいろなところに行けないモヤモヤが、子どもやみなさんにあるかもしれません。みなさんに絵本をすすめます。絵本の世界の中で楽しくおもしろい体験をいっぱいして下さい。絵本を読む(語る)ことは、どこでもできます。いつでもできます。誰でもできます。
執筆者 古橋和夫
保育学部保育学科 教授
(専門は教育学)

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