グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ



風へ祈る


ホーム >  教員コラム >  風へ祈る

自分の生きた証を残したいと思うようになった。

人生は常に「生と死」が表裏一体であり、今、こうして生きていることは、よほど幸運な偶然の連続に過ぎないからではないかと強く感じるようになったからだ。コロナ禍でその想いは一層強まったが、自分の中の起点は2011年3月の東日本大震災に遡る。
私は東日本大震災で、陸前高田で高校教員をしていた友人を失った。友人は顧問を務める水泳部の部員を助けに迷わず車を走らせたまま行方不明となった。幼少期に向かいの家で家族ぐるみの付き合いで育ち、一番小さかった彼女は、雪山で転んでは泣いて、私の中では、いつまでも「ちっちゃな子」だったはずが、その近況を新聞記事で知ることとなる。同じ後進を指導する者として、私のこの一日は、今も彼女が求めている一日に違いない。時に気持ちが負けそうになった時には、彼女のことを思い出し、強く前に進む力へと変えてきた。
2枚目のアルバムタイトルは《風へ祈る》とした。アルバムの最終収録曲であり、同じ歳で親交の深い福田洋介氏(1975-)の作品名でもある。氏は、この作品を東日本大震災から10年経過した2021年3月11日に発表。期せずして同じ想いを抱えていた福田氏は、次のように語る。
「10年前の事を忘れていないと言いながらも、風化してしまっているようなおそれも感じるのです。人間と自然の共生を見つめ直す動きの昨今。しかしながら天と地が我々人間に与える猛烈な試練が日に日に増しているように思います。豪雨、台風、猛暑、吹雪、地震...そこに我々はどう立ち向かい、また安全を保障し、自然の中に人間が生きていくとはどういう事なのか。我々はただただ、いのちの有りようについて、言葉にならない祈りを手向けるのでしょう。その透明感を音楽にしようと試みた作品です」
生きるとは、どういうことなのであろうか。私は、それを自分にしかできない事を探し続ける旅だと位置づける。バスクラリネット作品を素晴らしい作曲家の皆さんと開拓し形にしていく。そのことが、自分がいなくなった後の未来に、少しでも生きた証となれば幸いである。

風へ祈る。平和と希望への祈りを風に込めて。

ページの先頭へ戻る