わたくしの研究分野は建築史である。近年は他の工学系分野でも、産業遺産など歴史研究が盛んだが、建築はずっと前から歴史的研究の対象とされてきた。人間と物の関わりを考える上で、建築は最も古くから、デザインや技術の展開を伝えてきたといえる。そしてそれは最もわかりやすく、人間がおかれた環境と、共同体の理想とを伝えてくれる。歴史の教科書や各国の紙幣に、偉人と共に代表的な建築物がしばしば登場する。その理由は、建築が、1. その場所から動かないこと、2. 耐用年数が長いこと、3. ひとりではつくれないこと、に起因している。
古い建築には価値がある。なぜか。
古い建築には価値がある。なぜか。
- デザインがよい。建築はひとつの場所に立ち続ける。時には過酷な自然に耐えなければならない。デザインが悪いと、雨や日差しや外力に応えて長い時間形を保つことができない(デザインとはそういう意味である)。
- 使われ続けている。長持するのは人が手をかけるからである。人の一生よりも遙かに長い時間、建築物が立ち続けているのは、代々の人がそれを大切なものとして扱ってきたからである。
- 記憶そのものである。ある時代の社会・公共性をかたちで示す。子供の頃に見た物がそこにあること、何世代も前の人と同じ物を見ているということ、この感動は人間特有である。
法隆寺伝法堂 常葉の由来となった橘三千代、
その孫であった橘夫人の住宅を改造したものと伝わる。
(奈良時代 国宝)
スプリットの街 古代ローマ皇帝の別荘が、
そのまま街の基盤になり、今でも市民が集う。
(クロアチア 世界遺産)
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